もし日本が侵略されたら、米軍は守ってはくれない!?

 そして、この現代のペロポネソス戦争の発火点となりうる台湾のすぐ近くに位置しているのは、私たちの日本なのです。中国による台湾への軍事侵攻、すなわち台湾戦争は、おそらく戦後日本が直面する最大の危機となるだろう。
 中国が台湾に軍事侵攻した場合、航空・海軍力を駆使して周辺の海・空を封鎖する可能性が高い。そうなれば、台湾からわずか110kmしか離れていない与那国島や尖閣諸島は、中国海軍に制圧される可能性がある。台湾有事は日本有事と言われる所以である。
 そうなれば、日米安保条約が発動され、米軍が動き出すと考えたくなる。しかし、現実はそう単純ではない。米軍にしてみれば、1万キロに及ぶ太平洋上に大規模な部隊を展開する大規模作戦であり、台湾防衛が最優先事項である以上、日本の離島奪還をどこまで重視するかは不明である。
 したがって、与那国島などの離島奪還作戦は、自衛隊の単独作戦になる可能性がある。戦争は不確実性の集合体であり、事前の想定がどこまで通用するかは誰にも分からない。
 もちろん、自衛隊の軍事行動は、米軍との共同作戦の中で行われる。しかし、いずれにせよ、日本は中国との戦争に突入することになる。これはおそらく、戦後最大の政治決断になるだろう。
意図」と「能力」が一致する前代未聞の状況である。
 台湾で戦争が起こった場合、日本が直面するリスクのパターンは膨大で、天文学的な数字になる可能性がある。戦争を回避することは、日本にとって最重要課題である。もちろん、米国も中国も戦争は避けたい。しかし、21世紀の「新しい現実」は、それを許さないかもしれない。
 つまり、中国は歴史上初めて、台湾を軍事的に侵略する「意図」と「能力」の両方を手に入れることになる。
 現在、中国人民解放軍は台湾を完全に制圧できるほどの能力を有していないと考えられている。その理由として、台湾海峡を越えて上陸作戦を行うための十分な輸送手段がないことがよく指摘される。
 しかし、2022年に国防費を7%以上大幅に増やすことを決めた中国人民解放軍は、いずれそのような能力を獲得する可能性が高い。民間の船舶も多く動員されるだろう。そして、習近平指導部は台湾統一の意思を繰り返し表明しているので、中国は将来、台湾を侵略する「意思」と「能力」の両方を手に入れることになる。国際政治学では特に「能力」を重視するが、両方が揃うことは極めて危険であり、これこそ米国が懸念すべき最大の理由である。